第1章・発端V          
           
「面白え。考えてみるか」
 頼もしい男である。

「出来そうか?」
「予算のことなら、まだわからんとしか言えんよ。俺がトンカチ持って組むわけじゃないからな。 俺が泣く分には何とでもなるけど、職人さんに俺たちの浪花節は関係ない」
「そうだな」
「ある程度プラン決まってから積算してみるけど。心配するな、はみ出たら自分でやるだけだ」
 気軽に言ってくれるけど、いったい何をやるハメになるのだろうか。なんとなく、お日様に薄い雲がかかったような気がした。
「それに、徹底的に資材をチープに考えてな」
 まさか、屋根がブリキの波板ってことはないだろうけど。
 空一面に厚い雲が立ち込めてきたようだ。
「今はチープでもなかなかいい建材もあるぜ。見場さえ気にせにゃ」
 暗くなった空から、ポツンと雨ツブが落ちてきたようだ。
「ともかくプラン考えてみるわ。チープチープで限界に挑戦ってか。うーしっ、楽しみになってきたぜ」
 拳を握る良樹を横目で見ながら、俺はそっと傘を広げながら言った。

「せめてシンプルと言ってくれ。チープは胸が痛む」

『財団法人愛知県公共嘱託登記土地家屋調査士協会』とかいう、漢字が22個も並ぶ面倒臭い団体制作の測量図。名刺を見てみたいもんだ。
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